心理・医療の支援者における「プレゼンス」とは何か

対人支援におけるプレゼンスの重要性:マインドフルネス、深く聞くこと

はじめに

対人支援専門職(心理士、医師、カウンセラー、ヨーガ講師、マインドフルネス講師など)の現場では、クライエントとの関係性の質が支援の効果に大きな影響を及ぼします。その関係性を高める上で、支援者自身の「プレゼンス(presence)」が極めて重要であると指摘されています。
本稿ではまずプレゼンスの定義と対人支援における意義について述べ、次にプレゼンスを高める上で、マインドフルネスとコンパッションがどのように作用するのか、そして深く聞くことの役割についてご紹介します。

プレゼンスの定義と対人支援における意義

プレゼンスとは、対人場面で支援者が「今、この瞬間」において自らの全存在をもって相手に向き合う在り方を指す概念です。例えばGeller(2013)は、Therapeutic Presence(治療的プレゼンス)を「支援者が自己の全体をクライエントとの対面に持ち込み、身体的・感情的・認知的・精神的・関係的な多層面で完全に今この瞬間にいること」(筆者訳、以下同)と定義しています。

つまり、支援者が注意・意識・関心のすべてを目の前の相手との関わりに向け、深く没入しつつも安定した態度でいる状態を指すと理解されます。これは、物理的にその場をともにするだけでなく、クライアントの語りや感情に対する開かれた姿勢と受容的な関心を示すということです。支援関係においてプレゼンスは、信頼関係を築く土台となるでしょう。支援者が十分に「共にいる」感覚を提供できれば、クライアントは安心して自身の抱える困難や感情を開示しやすくなります。

Wampold and Imel (2015) は、治療同盟(アライアンス)がセラピーの成果と中程度の相関があるとしています。クライアントが支援者のプレゼンスをどのように受け止めるかが治療同盟の質を予測する要因になるとされ (Geller, 2013)、プレゼンスは良好な治療同盟(therapeutic alliance)や支援関係の質に寄与する重要な要因と考えられます。プレゼンスはまた、古典的なロジャーズの「3条件」(共感的理解、無条件の肯定的関心、自己一致)の基盤を成すものと考えられます。

したがって、プレゼンスは対人支援職における専門的スキルの中核として、支援効果を高めるために実践する価値のあるものと考えられます。

マインドフルネスとプレゼンスとの関係

プレゼンスを培う一つの方法としてマインドフルネスが挙げられます。

マインドフルネスとは「意図的に、注意を今この瞬間に向け、良し悪しの判断にとらわれないこと」と定義され​ます(Kabat-zinn, 2013)。

つまり、現在そこに生じている身体感覚、思考、感情などの体験に、解釈などを挟まずに、それらを認識している、意識的な状態です。この状態は、支援者のプレゼンスに通じるものがあります。Geller (2001, 2002)は、プレゼンスの要素として、グランディングしていること、オープンであること、受容的であることを挙げています。これらは、マインドフルネスの実践にて重視される態度と重なります。加えてGeller (2009)は、「クライアントの体験の深みに対して、完全に今この瞬間に存在し、開かれた受容的な姿勢でいることは、セラピストがより共感的で、調和的かつ真摯でいられるように助けるだけでなく、クライアントと共にある自分自身の内的体験ともつながる助けとなる」と述べています。

マインドフルネスでは、呼吸や身体感覚に意図的に注意を向け、留め、そこから生じる心の動きに対しても受容的であることを実践していきます。このようにマインドフルネスは支援者の精神的な安定と集中を高め、プレゼンスを土台から支えるものとなる可能性があります。

さらに、Brun (2023)は、マインドフルネスがウェルビーイングの向上や燃え尽き症候群の予防に対してもたらす肯定的な効果については、多くの文献によって明らかにされてきたとし、これらの研究によって、マインドフルネスによって、機能不全な対処パターンの再出現に気づきやすくなり、否定的な出来事から一歩引いて観察することを可能にすることを示していると述べており、バーンアウト予防の可能性を示唆しています。

深い傾聴の重要性とプレゼンス・信頼関係への影響

質の高いプレゼンスを実践する上で欠かせない具体的スキルが深く聞くこと(deep listening)です。深く聞くことは、単に相手の言葉を「聞く」だけでなく、相手の体験や感情に寄り添いながら注意深く聴く態度を指します。これは、カール・ロジャーズが強調した共感的理解に欠かせない要素です。

Geller (2002)は、プレゼンスのプロセスを、クライアントの体験全体を受け取る(受容的である)、その体験がセラピスト自身の身体の中でどのように共鳴しているかに気づく(内側への注意)、そしてその内的な共鳴を表現したり、クライアントと直接つながったりすること(外へと広げ、接触すること)としました。その中で、深く聞く、というプロセスは重要な意味を持つと言えます。それは、物理的に音をキャッチするだけでなく、自分の中で起こるプロセスも含めて「聞く」ことなのです。

深い傾聴が果たす役割は極めて大きいものです。

第一に、クライエントとの信頼関係(ラポール)を築く上で基盤となります。傾聴を通じて支援者が共感と受容を示すことで、クライエントは「自分の話を真剣に受け止めてもらえている」「理解されている」と感じ、安心してさらに自己開示を進めることができます。

第二に、深い傾聴はクライエントにとっても報酬的な体験となりえます。Kawamichi (2015)は、自分の話を熱心に聴いてもらえた被験者は、そうでない場合に比べて聞き手への好意度が高まり、そこでは、脳の報酬系(腹側線条体)が活性化していることが示されました。つまり、これは十分に聞いてもらっている事自体が、人にとって心地よさを伴う体験であり、傾聴がセラピーにおける癒しの一部となることが示唆されています。

まとめ

プレゼンスとは、支援者が「今この瞬間」に全存在をもって相手と向き合う在り方のことを指します。この態度は、支援関係において安心感や信頼感を育み、クライアントの自己開示を促す上で非常に重要です。プレゼンスがあることで、良好な治療同盟が形成され、支援の効果を高めることができるとされています。

プレゼンスを育む実践の一つに、マインドフルネスがあります。マインドフルネスは「今ここ」に意図的に注意を向け、判断をせずに受け止める態度であり、支援者の内的安定や集中力を高めることで、より深いプレゼンスを可能にします。また、マインドフルネスはバーンアウトの予防やウェルビーイングの向上にも効果があるとされています。

さらに、プレゼンスを実際の関わりの中で発揮するうえで欠かせないのが「深い傾聴」です。これは、言葉の内容だけでなく、相手の感情や背景に共感をもって聴く態度であり、共感的理解の基盤となります。深く聴いてもらうこと自体が、クライアントにとって癒しの体験となり得ることも示唆されています。

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