みなさん、マインドフルネスを伝えるとき、安全性やトラウマについて考えられたことはありますか?
マインドフルネス、ヨーガ、瞑想の実践は、私たちに、たくさんの恩恵を与えてくれます。ストレスが多い現代社会において、マインドフルネス、ヨーガ、瞑想は特に必要とされ、医療、福祉、教育、ビジネス、コミュニティなどさまざまな領域で広がり始めています。
しかし、同時に、マインドフルネスはとてもパワフルであり、僅かではありますが、用い方によっては、外傷性ストレスの症状を悪化させる可能性があります。そのため、トラウマに敏感な方には、安全に配慮した伝え方が大切になります。
マインドフルネスや瞑想を伝える人は、その点についての理解と、責任を持つ必要があります。
世界的にみても、マインドフルネス、瞑想指導に関わる方はトラウマへの配慮を特に学ぶことが必須となってきています。
International Mindfulness Center JAPAN(IMCJ)では、そのトレーニングとして、David Treleaven博士の「トラウマセンシティブ・マインドフルネス」(TSM)を日本にご紹介しています。David博士をお招きしてのウェビナーや、13ヶ月間でDavid博士のオンデマンドコンテンツを元にグループで一緒に学んでいくプログラムをご提供しています。
トラウマセンシティブマインドフルネスとは何か?
トラウマセンシティブ・マインドフルネスとは、マインドフルネスやそれに類すること(意識的に注意を内側に向けるよなこと)を用いた介入を行う際に、参加者の安全を守り、その実践にアクセスすることをサポートするため、David Treleaven博士がまとめた一連の考え方や具体的な方法です。実際に学ぶことのできる一つのパッケージになっています。
位置づけは、以下のようになります。
- このプログラムは、トラウマ自体の治療を目的としたものではありません。
- 一方で、マインドフルネスはトラウマからの回復のサポートになります。しかし、トラウマに苦しむ方は、そのマインドフルネスにアクセスできなくなることがあります。安全に、効果的にマインドフルネスにアクセスできる方法を学ぶのが、トラウマセンシティブ・マインドフルネスです。
以前、David先生をお招きしたウェビナーでは、以下のような内容について話がありました(筆者の理解を要約)。
- マインドフルネスはトラウマからの回復を助けるものになりうるとともに、その妨げになることもある。
- トラウマには段階・範囲があり、通常のストレス、心的外傷性ストレス、心的外傷後ストレス、PTSDと段階的に進んで行く。PTSDを発症するのは人口比3.5%程度に対し、心的外傷性ストレスをおった経験のある人は90%に上る。クラスの中に、瞑想による何かしらの副作用が発生すれうる人が含まれているというつもりでいるほうがよい。(アメリカの数字)
- トラウマ的な体験を持つ人に対しては敬意をもって接することが大事。その状態を変えよう、ではなく、ただ一緒にいて、敬意を払う態度。
- 安全性に配慮したマインドフルネスとは、トラウマを理解し、認識し、それに対応し、再トラウマ化を回避するという4つのステップにより構成される。
- 瞑想時に、トラウマ的な記憶に出会うと、硬直してはまり込んでしまう事が起きる(見たものを石に変える「メデューサ」に例えられる。これを防ぐには、盾となるものを持っておくことが必要。
- アンカーをどう持っておくかは大事な要素。通常、呼吸をアンカーとしてガイドされることが多いが、人によっては呼吸やそれに伴う身体感覚がトラウマ的な記憶を呼び起こすことがあるため、選択肢を与えることが必要。音や身体感覚(特に足の裏の感覚など)など。
David先生によると、このトラウマセンシティブ・マインドフルネスは、トラウマの記憶が神経系に与える影響を理解し、その視点から、マインドフルネスを安全に実践する上で必要な配慮や具体的な対応を学ぶことです。
ここで学ぶことは、トラウマの専門家が行う治療方法についてではなく、マインドフルネスや瞑想(またはそのエッセンス)を伝える人が広く知っておくべき配慮や具体的な対応方法です。
精神医療や心理の専門家のためのものなのか?
「トラウマ」という言葉を聞くと、精神医療や心理の専門家のものと思われる方も多いかと思いますが、ことはそのように単純なものではありません。むしろ、非専門家のかたこそ、知っておくべきものと言えるかもしれません。
前述のように、トラウマセンシティブ・マインドフルネスは、トラウマ治療を目的としたものではありません。その一方で、本人が自覚していない環境下で、瞑想実践が過去の記憶により妨げられる(アクセスできなくなる)という可能性を持つ人が、どのクラスにも混ざっている、ということを知っておく必要があります。そうなると、講師やセラピストが好むと好まざるとにかかわらず、この問題を知識の上でも対応方法の上でも知っておく必要があります。
この知識があれば、クラス中になにか起きても、そのまま続けてよいのか、専門家の支援が必要なのか、そのような判断も可能になってきます。トラウマセンシティブ・マインドフルネスを学ぶとは、トラウマをもつ人をその講師が抱える、ということではなく、講師として自分が対応できる範囲を知り、サポートが可能な場合はそのサポートを提供し、難しい場合は適切な対応(専門家への相談を進めるなど)を判断することができる、ということです。
重要な概念としての「体制の窓」
トラウマセンシティブ・マインドフルネスで、重要な概念として、「体制の窓」というものがあります。
耐性の窓について、National Institute for Clinical Application of Behavioral Medicineのウェブページでは、以下のような説明がなされています。
「耐性の窓」とは、Dan Siegel博士が提唱した概念で、人が日常生活を送る上で最適な「覚醒」の状態を表すものです。人は、このゾーンや窓の中で活動していれば、感情を効果的に管理し、対処することができます。トラウマを抱えたクライアントは、感情をコントロールすることが難しく、効果的に機能することのできる覚醒領域が非常に狭くなっています。
(出典)https://www.nicabm.com/trauma-how-to-help-your-clients-understand-their-window-of-tolerance/
つまり、窓の枠から上に出て過覚醒状態になると不安や怒りなどを感じる状態になり、逆に下側の低覚醒状態では無力感や凍りつくような状態になり、いずれも感情のコントロールが難しくなる状態を指します。
マインドフルネスの実践を通じて真ん中の最適な枠に留まるにはどうするとよいか、この枠を広げるにはどうするか、といったことを、トラウマセンシティブ・マインドフルネスのプログラムでは学んでいくことになります。
学ぶ対象として想定される人
対象としては、以下のような方々を想定しています。
- マインドフルネス、ヨーガを教えている、または医療、心理、教育等の場面でマインドフルネスや瞑想のエッセンスを用いて対人支援を行っており、安全なマインドフルネスを伝えることに興味がある方。
- 自らマインドフルネスの実践を行う中で、より安全、安心な実践を行いたい方。
- その他、マインドフルネスの実践する実際的な側面から、トラウマに配慮したマインドフルネスについて知りたい方。
書籍
和訳もあります。
より深く学びたい方へ
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