本日は、MBSR講師/MBCT講師(in training)の家永さんにインタビューをさせていただきました。
家永さんは、作業療法士として精神医療の現場に深く関わりながら、IMA/IMCJのマインドフルネスストレス低減法(以下、MBSR)講師養成トレーニングを1期生として卒業後、複数のMBSRコースを講師として担当され、今年に入ってからはマインドフルネス認知療法(以下、MBCT)トレーニングを終えて現在MBCTコースを教えていらっしゃいます。MBCTを教えるということについてお伺いしました。
インタビューアー:宮本賢也
宮本
本日はありがとうございます。2022年10月に1年半にわたるMBSR講師養成トレーニングを終えられ、複数回MBSRコースを教えられた後、今年の初めにMBCTのトレーニングを修了されました。
先日のMBCTコースを担当されました。1回目のMBCTコースはいかがでしたか。MBSRを担当するときと違う感じがあったでしょうか。
家永さん
ありがとうございます。
今回は、初めてのMBCTのクラスということもあり、「辛い感情や辛い思考との関わり方の練習」という言葉の重みで緊張していたところがありました。
宮本
MBCTはうつの再発予防のために作られたプログラムなので、難しい感情や思考との関わり方が一つの焦点になりますね。
家永さん
自分の人生しか知らない自分が、色々な経験をしてきた参加者の方から自分では分からない大きなものが出てきたとき、それを抱えることが出来るだろうかという緊張感です。しかし、辛さを抱える必要はなく、近寄って見てみたり、転がしてみたりと色々な関りが出来ることを体験できたような気がしています。
宮本
私自身も、同じような体験をしたことがあります。かなり年配の、私よりずっと人生の先輩にあたる方で、重い病をお持ちの方がMBSRのクラスにお見えになりました。そのときはスーパーバイザーの先生にも相談しましたら、自分でそれを抱える必要はなくて、「マインドフルネス」に抱えてもらえばいいのだと言われました。ある意味、わたしたちが行っているのは、マインドフルネスというしっかりしたものを、参加者の方にどう上手に受け取ってもらうことなのではないかと思いました。
家永さん
クラスを通した印象としては、MBSRは、大きな海に浮かんで、自由に波に乗っていたら、一つの島にたどり着くような自由感があり、それは楽しく何が出てくるかとワクワク感があります。それに比べて、MBCTは、とても広い道幅の道ですが、進むべき方向があり、ところどころで道しるべが、置かれているような安心感があるといった印象です。
宮本
面白いですね。MBSRは、根っこのところでは、人間として生きていく中で誰しもが抱えているストレスや苦しさのようなものを扱っていくところははっきりしていますが、実際のクラスの進み方は自由度があるように感じられます。その時々に参加者の方から現れてくる課題も、題材として取り入れながら行っていきます。ですから、講師自身が、今その瞬間に留まるマインドフルネスの実践が必要不可欠だと感じます。
MBCTは、より構造化されたプログラムで、おっしゃるように道しるべが必要なところに置かれているような感じかもしれません。
家永さん
はい。ただその道しるべがあるために場が窮屈になっているというわけではなく、MBSRと比べると振れ幅が小さい分、迷子にならない安心感がうまれて、それ故にしゃがみこんで花の匂いをかいでもいい、虫をそっと触ってみてもいいというような繊細な楽しみがあると感じます。
宮本
MBCTは、うつの再発予防を目的として、MBSRと認知行動療法を組み合わせて、3人の心理学を専門とする先生方によってつくられたものです。先程も話に出ましたが、そこでの一つのポイントは、思考への関わり方かと思います。今ここの瞬間のことではない、未来や過去の思考が反芻(繰り返し起こること)するのにどうかかわっていくのか。思考の反芻が起こると、私たちは、今この瞬間から切り離されてしまいます。
家永さんは、MBCTをどのようなプログラムと感じていますか。MBCTのメリットはどんなところでしょうか。
家永さん
認知行動療法は、流れる思考をしっかりと認識し、その中身を見て、料理していくような力強さを感じます。自分の土台が不安定なときは、中身をみることで、その考えが起きた場面の体験を追体験するような体験もあります。MBCTは、思考そのものを解体しようとしたり変えようとしようとするのではなく、流れていくものとしてとらえたり、または反応している身体を柔らかいまなざしで見たりする、というやさしさを伴うアプローチであると感じます。
私が、MBCTの中で好きなところは、「困難な思考や困難な感覚との新しい関わり方」です。認知行動の中にも、自己批判する思考を受け入れるというやり方があったかと思いますが、思考という武器には圧倒される感じがあります。しかし、MBCTの困難さとの新しい関わり方は「好きにならなくてもいいけど、その感覚がいてもいいと許してスペースを作ってあげる」というスペースを作ってあげている自分自身にも優しい感じがあります。
宮本
なるほど、スペースを作ってあげるという感じですね。
プログラムの構成としても、認知行動療法の要素として、ある事象に対する解釈や思考が受け取り手の中での感情のアップダウンをもたらすということや、逆にその時のムードが生まれてくる解釈や思考に影響を与える、というワークがあります。私たちは、浮かんでくる思考を正しいもの、従うべきもの、と自動的に思ってしまう傾向がありますが、思考にも自分のサポートになるもの、ならないものがあることをしって、それらを見極め、どの思考に載っていくのかを自ら選択するというのがポイントなのかなと思います。そのためには「気づく」ことが必要で、瞑想の実践はその力を養うものになります。
家永さん
おっしゃる通りですね。自分を非難する思考、未来を心配する思考などネガティブな思考ほどあっという間に囚われて、かきたてられたり、抵抗するようないつものパターンの行動までしてしまいます。気づくことでもたらされる「間」の力は絶大だと感じます。
宮本
現在、お仕事の上でも、精神科医療の現場に携わっていらっしゃいます。今後、MBCTやMBSRといったマインドフルネスにはどのような可能性があると感じていますか。
家永さん
精神科医療といっても、幅広く自分が体験したことがある一部分から、という前提でお話をします。
病気になる、再発をするというときに、多くの人は、対峙するストレスと自分なりのやり方で頑張って対処しようとされています。そのやり方がエネルギーを大量に消費したり、環境と合わなかったりして、上手くストレス対処になっていない、ということが多々あります。心理療法など多くの手段がありますが、まず自分が「どんな考えをして、どんな行動をしているか」という考えや行動のパターンに気づくということが出発点だと思います。その点からは、マインドフルな気づきは、健康に生きる上での土台のように思います。病気をなおす治療と、並行して生活の作り直しのような未来志向、それは予防という面でも意味があると思います。
また、精神科医療に限ったことではないかもしれませんが、医療を必要とする方と関わる中で、その方を取り巻く環境の中の一人の人という全体的な視点や、言葉での訴えでないニーズへの気づきなどがマインドフルネスをしている中で、育っていったように感じます。
宮本
IMA/IMCJのプログラムでは、MBSR講師としてのトレーニングを経て、複数回コースを教え、MBCTのトレーニングに参加するというルートをたどりました。
MBCTの前にMBSR講師であるということには、家永さんにとってはどのような意味があると思いますか。MBSR講師であるということは、MBCT講師としての役割に何か生きている部分があるでしょうか。
家永さん
MBSR講師になるためにたくさんの体験を通して、マインドフルな状態を体感してきました。だからこそ、思考や感情に囚われている状態がより理解が出来、「今に戻る」ことの大きさをお伝え出来ます。また、MBCTは、思考との関わり方と申しましたが、思考や感情で反応している・嫌悪している身体に気づき、丁寧に見ていくことを行います。身体とより仲良くなることをしていきます。MBSRで、しっかり身体の感覚を味わうことの大切さを練習したことの応用編のように感じています。
MBSR講師として、MBCTのクラスをすることをお話ししましたが、MBCTのクラスをした後に、MBSRのクラスをすると、参加者の方の体験との関わり方がよりクリアに見えるという印象がありました。マインドフルネスを複数の方向から深められたことが、ありがたいと思っています。
宮本
ありがとうございます。
御存知の通り、MBCTはMBSRをベースに作られたプログラムですが、講師としても参加者としても、それぞれのプログラムに習熟することが、お互い(MBSR⇔MBCT)を理解する助けになるように感じます。どちらも扱っているものはマインドフルネスですから、入っていく入口やアプローチは異なっても、深くほっていくとマインドフルネスやコンパッションという内なるリソースにたどり着くのは同じだと思います。
いくつかの観点から眺めることで、立体的に見えることもありますし、人によってこちらのルートよりあちらのルートのほうが、マインドフルネスやコンパッションにたどり着きやすい、ということもあるでしょう。私もMBCT、MBSRの双方のトレーニングを受けてそのあたりのことを実感しています。
本日はありがとうございました。
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