マインドフルネス講師の内省力を高める 〜MBI:TLCを用いて〜

マインドフルネス講師の振り返りツールとして開発された、MBI:TLCをご存知でしょうか。

マインドフルネスストレス低減法(MBSR)、うつの再発予防のためのマインドフルネス認知療法(MBCT)などのマインドフルネスプログラムは、現代においてストレス管理やメンタルヘルスの向上に大きな役割を果たしています。

(研究結果の詳細ご興味ある方は講師ネットワーク記事をご参照ください)

これらのマインドフルネスのクラスでは、「生徒が先生から新しい知識を学ぶ」といったような進み方ではなく、「参加者が、自身の体験に上手に関わっていくことを、体験的に理解し、学んでいく」という進み方をしていきます。

そのような場でマインドフルネス講師が必要とされる力には、どのようなことがあるのでしょうか。

その一つのツールが「Teaching and Learning Companion(MBI:TLC)」です。これは、MBSRやMBCTといったMBIの講師が自らを振り返り、スキルアップを目指すためのツールとして開発されました。本記事では、TLCの概要とその役割、さらに講師としてどのように活用できるかを紹介します。

TLCの開発背景と目的

TLCは、マインドフルネスの専門家であるDr. Gemma GriffithやDr. Alison Evansや研究機関のチームによって開発されました。

その前身となるのは、Teaching Assessment Criteria(MBI:TAC)です。MBI:TACは、マインドフルネスの教育を大学院レベルで実施する際の評価基準が必要であったことや、研究時の介入で実施されるマインドフルネスプログラムの質を評価する必要があったことから、Bangor大学、Oxford大学、Brown大学等、英米の大学を中心に作られ管理されています。

MBI:TACはBangor大学のMBI:TACのサイトでご覧いただく事ができます。

このMBI:TAC研究やトレーニングプログラムでの評価ツールとして作られたのに対し、MBI:TLCはより講師自身の内省的な使い方に重点を置き、日常的に使えるマインドフルネス講師のいわば伴走者として再構築されたものです。

想定としては、MBSRやMBCTなどのMBIプラグラムの講師を想定していますが、より幅広いマインドフルネス講師の方々に参考にしていただけるツールであると思います。

このMBI:TLCを、日本の皆様にご覧いただけるよう、マインドフルネス講師ネットワークの有志により、翻訳作業を行いました。その日本語版は、以下、Bangor大学のMBI:TLCのサイトから無料でダウンロードいただくことができます(サイトを開いて”TLC in Japanese”のリンクをクリックされてください)。

TLCの概要

TLCは、マインドフルネス指導者が自身の指導スキルを内省し、改善するためのフレームワークです。このツールは、指導者がクラスでどのように教え、どのような場面でどのように対応するかを振り返る際に役立ちます。また、指導者が抱える課題や、改善の余地がある部分を具体的に特定する手助けをします。TLCの特徴は、MBIで示される以下の6つの領域を活用し、それぞれの領域で必要なスキルを明確に示す点にあります。

  1. 各セッションのカリキュラムの範囲、ペース、構造
  2. 関係性のスキル
  3. マインドフルネスの体現
  4. マインドフルネスの実践をガイドすること
  5. インクワイアリと訓話を通した、コーステーマの伝達
  6. グループで学ぶ環境を保持する

1.各セッションのカリキュラムの範囲、ペース、構造

それぞれのプログラムで定めらているカリキュラムの理解や、それをどのようなペースで実施していくかについての項目です。カリキュラムに定められた内容を実施しつつ、クラスの中で起きてくる予期せぬ出来事もカリキュラムの中に上手にとりいれていく柔軟性も求められます。

2.関係性のスキル

MBSRを作ったジョン・カバット・ジン博士は、関係性をマインドフルネスの大きな要素の一つとして挙げています。そのとき時のありのままの自分とつながっていくことです、参加者の対して、やさしさを伴う十分に注意を向けていきます。

3.マインドフルネスの体現

講師自身がマインドフルである、ということが、参加者にとって、大きな学びの機会になります。講師が十分に自分自身にその瞬間に起きていることに気がつくこと、十分にマインドフルであることが、いわば満ちたコップの水が外に自然と溢れていくように、言葉を超えたものとして伝わっていきます。

4.マインドフルネスの実践をガイドすること

マインドフルネスのクラスでは、多くの場面で、講師がガイドをして瞑想の実践をみんなで行う機会があります。参加者が、より自らの体験に深く関わることができるよう、言葉の使い方など、様々な配慮を行います。

5.インクワイアリと訓話を通した、コーステーマの伝達

インクワイアリとは、参加者が自らの体験を内省するため、講師と参加者間で行われる対話のことです。マインドフル・ダイアローグ(マインドフルな対話)と呼ばれることもあります。実際に行っていくうえでは、対話のフレームワークや技術的な側面もさることながら、講師が一人の人間としてどのようにそのスペースに存在しているか、ということも大事な要素となります。

6.グループで学ぶ環境を保持する

MBSRやMBCTといったプログラムは、通常、8週間の間、同じグループメンバーで行っていく実践です。グループで実践することが、参加者にとって、ポジティブな効果をもたらすように、安全な場を作り、お互いに学ぶことのできるような環境を作っていくことも講師としての大事な役割です。

これらの6つの領域は相互にサポートし合うものであり、まずは自分にとって取り組みやすいものから徐々に取り組んでいくとよいでしょう。

TLCをどのように用いるのか

TLCは自分ひとりで振り返りのためのツールとして用いることもできますし、スーパービジョンを受ける際にその媒介となるものとして用いることもできます。

Gemma (2021) では、TLCを効果的に活用するために、まず短い瞑想実践で自分自身を落ち着かせることから始めることを勧めています。自分について振り返る際に、「できた」「できなかった」という評価を下す傾向にある人もいるでしょう。TLCでは、評価よりも、ありのままに振り返り、自分の強みを知り、改善の余地のあるところを理解していくことを重視しています。このプロセスは、他者との比較としてではなく、自分の内側を深く見つめ、内側(講師自身)から外側(参加者)へマインドフルネスが自然と伝わっていくようなものです。

TLCを効果的に活用する方法の一つが、自ら振り返りの記述を行う際に用いることです。クラスを行うごとに振り返りをメモし、そこから新たな学びや改善点を探ります。その振り返りを行う切り口として、TLCを用いることができるでしょう。例えば、クラスの中で、ある受講者の反応に困った、ということが起きた場合、TLCを使ってその場面を振り返り、どのように改善できるかを考えることができます。TLCには、指導者が直面する具体的な状況を振り返り、対応策を見つけるためのステップが組み込まれており、これにより指導者はスキルの向上を図ることができます。

マインドフルネス講師としての継続的な成長のために

以上に見たように、MBI:TLCは、自らを振り返り、強みや成長の余地のあるところを知るためのサポートとなるツールです。評価より、自らに関心を向けることであり、講師としてのスキルを高めることにくわえ、セルフケアの側面もあるでしょう。

マインドフルネス講師としては、より客観的な視点を得るために、定期的なスーパービジョンを受けることも成長のための大きなサポートになります。また、何より、日々の実践を行うこと、可能であれば先生やともに実践する人のグループの中で、対話をしながら自身の実践を振り返る機会があるとなお良いでしょう。そして、マインドフルネス講師の世界的なネットワークであるIMI NETWORKなどでは定期的なリトリートに参加することも推奨されています。

参考

Griffith, G. M., Crane, R. S., Karunavira, & Koerbel, L. (2021). The Mindfulness-Based Interventions: Teaching and Learning Companion (MBI:TLC). In R. S. Crane, Karunavira, & G. M. Griffith (Eds.), Essential resources for mindfulness teachers. Routledge.

より深く学びたい方へ

2024年10月25日(金)20:00-22:00

Bangor大学のGemma Griffith先生をお招きして、MBI:TLCについてお話しいただきます。マインドフルネスの講師として活動されている方には参考になるウェビナーになるかと思います。ご興味ある方は是非ご参加ください。