マインドフルネス認知療法(MBCT) 〜認知行動療法のクリアで明解なアプローチとマインドフルネスの柔らかで用心深いエッセンス〜

本日は、MBSR講師、MBCT講師(in Training)の、江崎さんにお話を伺いました。
公認心理師として、ストレスマネジメントなどを中心に、多くの学生さんたちに心理学を教えたり、また、医療スタッフのメンタルサポートなどを行っています。

マインドフルネス講師になるまでの道のりは、以前、こちらのインタビュー記事にご登場いただきました。

現在は、認知行動療法を主なツールとして用いながら、マインドフルネス認知療法(MBCT)に興味を持ち、そのルーツであるマインドフルネスストレス低減法(MBSR)の1年半のトレーニングを経て、現在、MBCTも教えています。

宮本

本日はありがとうございます。2022年にIMA(the Institute of Mindfulness-Based Approaches, ドイツ)/IMCJ(International Mindfulness Center JAPAN, 日本)のプログラムでMBSR講師養成1期生としてのトレーニングを修了され、ここまで複数回MBSRを一般の方向けに教えて来られました。そして、今年になって同じくIMA/IMCJの「MBSR講師向けのMBCT」のトレーニングを修了し、先日1回目の8週間コースを教えられました。

もともと認知行動療法は馴染がおありなので、MBSRとMBCTを教えてみてどう感じられたか、興味深いところです。

スーパーバイザーとしては、MBSRはAmir Imani先生に、MBCTはIngrid van den Hout先生のもとでトレーニングを積まれました。

マインドフルネスに興味を持たれたきっかけでもあるMBCTを教えてみて、如何でしたか。

https://note.com/mindfulnessjapan/n/nc1ddb8114b10

江崎さん

はい、MBCTはMBSRとはまた違う視点がありました。
MBSRの魅力は、数あるマインドフルネスのプログラムの源流と言うこともあり、仏教に基づいた瞑想に取り組まれてこられた方や、ヨガや呼吸法に親しんだ方など、あらゆる人が取り組みやすい点だと思います。また、初めてマインドフルネスに取り組む方や、自己流で取り組んできたが、一度しっかりと8週間のプログラムを受けてみたいという方に最適だと思います。

宮本

そうですね、おっしゃるように、MBCTを始めとする様々なプログラムの基礎になっていますね。実践と対話によって参加者のみなさんのマインドフルネスのちからが高まっていくサポートをすることや、8週間というフォーマットなど、多くのプログラムに影響を与えています。MBCTはいかがでしたでしょうか。

江崎さん

それに対して、MBCTは、プログラムの成り立ちから、うつの再発予防という明確な目的があるため、文字通りうつの再発を予防したい方や、気分の落ち込みの対処に困っている方に対して、サポートになると感じました。

宮本

MBCTのコアなところはどのあたりですか?MBSRとは違う、具体的にどういった瞑想やワークがそのサポートになるのでしょうか。

江崎さん

うつや気分の落ち込みに対して、その入口に差し掛かっていることに出来るだけ早く気づき、悪循環に陥らないためのトレーニングと言えるかもしれません。ワークでは、よくある具体的な日常場面で、私たちが気分の落ち込みによって、いかにネガティブなものの見方を強めてしまうか、いかに思考や感情が連動して悪循環に陥りやすいかという構造に気づかされるものなどがあり、MBSRよりも具体的な設定が多いと感じています。瞑想では、3ステップ呼吸空間法という、MBSRでおこなわれるフォーマルな座る瞑想を、より日常生活に取り入れる為にデザインされたミニ瞑想があり、MBCTを象徴する実践方法の一つとなっています。不穏さや、わずかな気分の落ち込みを感じた時にこの瞑想を行うことで、今この瞬間に起こっている心身の変化に丁寧に気づき、より自身に必要な選択ができる可能性を高めていきます。

宮本

また11月末からMBCTを開講いただくことになっています。
今回クラスを担当されて、いろいろと気づかれたこともあるかと思います。次回に向けて、どのようなことに配慮しながら、コースを運営していこうと思われていますか。

江崎さん

うつの再発予防のために作られたプログラムであるため、どうすれば良いかといったテクニック的な内容を期待される参加者の方もいらっしゃるので、そういった期待は一旦脇に置いて、まずは自分の中で起こっていることを価値判断せずに丁寧に気づく機会や環境を提供できればと考えています。

また、気分の落ち込みの傾向や、よくあるパターン検討する時に1日の辛さを思い出したり心がざわつくことがありますが、特に頑張り屋さんやご自身に厳しい方に対して、そういった時によりご自身に優しい接し方、一旦無理をせず止まったり、また好奇心が湧いてきたらそっとその問題に近づいてみるといったアプローチを、クラス全体で共有していきたいです。

宮本

なるほど、テクニックによるのではなく、まずは価値判断にとらわれず、自分の状態に気づくということが入口なのですね。

ちなみに、今、江崎さんは、お仕事としてはどのような活動をメインとされているのでしょうか。

江崎さん

看護師や理学療法士などの医療従事者養成校での講師業務、企業での産業カウンセリング業務、病院での医療スタッフ向けの相談業務をおこなっています。

最近はマインドフルネスをテーマにした講演を依頼されることも少しずつ増えてきていて、東北を中心に「リスキリングとマインドフルネス」や「心理的安全性とマインドフルネス」といったテーマで講演をしました。

宮本

参加者の方の反応はいかがですか。

江崎さん

例えばリスキリングとマインドフルネスをテーマにお話しした際は、リスキリングを単なる職業訓練という意味合いではなく、物事の捉え方、スキルの組み合わせ方、といった観点から見直して、そこにマインドフルネスという気づきの実践がどのようにサポートになるかをお話ししました。これまでに参加者の方が学び身につけている他のスキルを活用するために、マインドフルネスはその土台となるということが参加者の方に伝わったようです。

宮本

オンラインで瞑想会を行ったり、東北マインドフルネスネットワークとして活動しているというお話も聞きました。

江崎さん

はい、2年半ほど前から、毎週月曜日に、講師養成講座1期の同期生のピアグループのメンバーとオンラインの瞑想会を行なっています。最初は自分たちの瞑想のガイド練習も兼ねて行っていたのですが、講師トレーニングを終えた後、マインドフルネス瞑想に興味のある方なら誰でも参加できるようにとオープンな形にしました。初めて取り組む方にも参加して頂きやすいように、時間を短めにしたり、瞑想のガイドで姿勢や呼吸についてより丁寧に説明するように心がけています。瞑想自体まったく初めてという方もいらっしゃいますし、継続的に参加いただく方もいらっしゃいます。気づけば既に140回を超えていて、改めて継続していく大切さを感じています。

宮本

140回ですか。1回1回が一期一会の瞑想会だったのだろうとお察しします。
瞑想の実践の大事なことは、少しでも継続していくことだと思います。

江崎さん

また、東北地方はマインドフルネスの講師の数が少ないこともあり、2期の方と東北マインドフルネスネットワークという団体を立ち上げ、年に数回、対面とオンラインのハイブリッド方式でマインドフルネスの無料体験会をおこなったり、月に1回のペースでオンラインの瞑想会を行っています。瞑想会では瞑想の他に、「瞑想の種類について」や「仏教の座禅とどう違うか」といったマインドフルネスに関するちょっとしたお話をする時間を設けているのですが、参加者の皆さんとの意見交換会に発展することもあり、学びの多い時間になることもしばしばです。

宮本

MBCTの話に戻るのですが、もともと江崎さんは相談業務の中で用いる認知行動療法がきっかけで、そこからマインドフルネス認知療法に興味をもたれたのだとお聞きしました。認知行動療法からみたときの、マインドフルネス認知療法は、どういうところが強みだと思いますか。

江崎さん

MBCTの良い点は、認知行動療法が持つ非常にクリアで明解なアプローチに、マインドフルネスという柔らかくて用心深いエッセンスが融合されているところだと思います。これは、MBCTを創られた3人の認知療法家が、当初創ったMBCTがなかなか機能せず、ご自身たちが実際にMBSRを受講された後に大幅に改良した結果出来上がったのが現在のMBCTのプラグラムということからも、いかにマインドフルネスの要素が重要だったかがわかります。

宮本

Zindel Segal先生、Mark Williams先生、John Teasdale先生の御三方ですね。マインドフルネス認知療法の本にその話も載っていましたね。カナダ、イギリスからアメリカまでいかれたというお話でした。

江崎さん

認知行動療法とMBCTには、各セッション以外の時間に取り組むホームワークのようなものがあったり、何をおこなうかということが比較的明確であるという共通点があります。一方で、そのアプローチには大きな違いがあり、認知行動療法では浮かんだ認知・考えに対して、より現実的な物事の捉え方への修正が試みられますが、MBCTでは浮かんだ認知・考えに対してそれとどう接していくかという関係性に重きを置くという違いがあります。どこに焦点化するか、狙いはどこかが異なるイメージです。

宮本

認知を修正するか、それへの関係性を見直すか、ですね。

江崎さん

もともと認知行動療法で行う、ケースフォーミュレーエション(クライエントさんの症状の理解や抱えている心理的問題がどのように“よくあるパターン化”しているのかを、認知的・行動的側面から見立てる)の中で、自分の中で何が起こっているのかになかなか気づけないクライエントさんに対して、マインドフルネスがおすすめですなどと言っていたのですが、当時の私は書籍の付録で付いてきた瞑想のCDを聴きながら、見様見真似の自己流で瞑想をおこなっている状態でした。

あまりにもマインドフルネスに対して不確かな知識しか持っていないこと、実践の方法がはたして正しいのかわからないまま継続していることに意味を見出せないこと、クライエントさんに自信を持ってマインドフルネスの説明や瞑想のやり方をお伝えしたい等の理由から、しっかりと体系だてられた8週間のコースを受講しようと決めました。

宮本

そうして、最初に参加されたのが、後にスーパーバイザーにもなられるAmir Imani先生のMBSRでした。

江崎さん

はい。最初はMBCTを受講するつもりでしたが、講座が開始されるタイミングの関係で、先にMBSRを受講しました。結果的には、後にMBCTを受講したさい、MBSRを受講していて良かったなと感じました。それは、認知行動療法のアプローチである認知再構成法や問題解決技法といったいわゆるDo-ing モード(設定したゴールへの到達を目指したり、何かを成し遂げようとすること)とは異なるBe-ingモード(今ここに“ある”ことや、この瞬間の体験や感覚をありのままに気づくこと)の大切さを実践の中で学ぶことができたからです。一旦止まって今この瞬間に何が起きているのかについて、丁寧に自身を観察するというマインドフルネスの土台のようなものの形成に注力できた感じでしょうか。

宮本

先ほどから、テクニックではなく、あり方の部分が大事である、ということを繰り返しおっしゃっていただきました。MBCTを開発された三人の先生のお話もそれに共通する話ですね。私自身は、MBCTのトレーニングを受けたあとに、MBSRのトレーニングを受ける、という逆のルートをたどりました。MBSRのトレーニングを受けてから、MBCTの核心にあるものがより良く理解できた、という感じがありました。

これから、MBSRやMBCTをどのような方々に伝えていきたいと思われていますか。

江崎さん

マインドフルネスは生き方そのものである、という言葉があります。もちろん様々な方に取り組んで頂きたいという気持ちもあるのですが、特に、ご自身のこれまでの生き方に対して、これで良いのかな、このままで良いのかなと迷ったり生きづらさを抱えている方に、自分を大事・大切にするこんな生き方もありますよ、とお伝えしていきたいと考えています。

宮本

私も、ジョン・カバット・ジンさんが、リトリートで、「MBSRは人生がカリキュラムだ」とおっしゃっているのを聞きました。認知のトレーニングというだけではなく、生き方を見直すきっかけになると素晴らしいですね。

本日はありがとうございました。

8週間コースへの参加ご興味があるかたは以下よりアクセスされてください